看護師の求人票を見比べると、「月給の額面は近いのに年収は大きく違う」ということが起こりやすい職種です。理由は給与の構造にあります。看護師の収入は基本給に夜勤手当などの各種手当が上乗せされる形で決まりやすく、働き方(夜勤の有無・回数)と職場の種類で総額が変わるためです。
この記事では、看護師の給与の構造、職場による違いの傾向、転職時に確認したい内訳のポイントを整理します。
看護師の給与は「基本給+手当」の積み上げで決まる
まず全体の水準から確認します。厚生労働省の職業情報サイト「job tag」によると、看護師の平均年収は524.7万円(平均年齢42.1歳)、有効求人倍率は2.41倍です(厚生労働省job tag・令和7年賃金構造基本統計調査/令和6年度ハローワーク求人統計より)。年収水準は高めで、求職者1人に対して2件超の求人がある売り手市場ですが、この「524.7万円」がどう構成されているかに、看護師特有の事情があります。
出典: 厚生労働省job tag「看護師」 https://shigoto.mhlw.go.jp/User/Occupation/Detail/156
看護師の給与明細は、基本給に複数の手当が積み上がる構成になっていることが多い職種です。代表的な手当には次のようなものがあります。
- 夜勤手当: 夜勤1回ごとに支給される形が一般的で、回数によって月収が変動しやすい要素です。
- 資格・職務手当: 保有資格や役職(主任・師長など)に応じて付く手当。
- 住宅手当・通勤手当などの生活系手当: 病院・法人によって有無と水準が分かれます。
- 賞与: 算定基礎が「基本給ベース」か「総支給ベース」かで、同じ月収でも年収が変わります。
つまり看護師の年収比較は「月給の額面」ではなく「基本給・手当・賞与の内訳」まで見ないと成立しにくい、というのが構造上の特徴です。
夜勤の有無で年収が変わる仕組み
看護師の年収差を生みやすい最大の変数が夜勤です。二交代・三交代の病棟勤務では夜勤手当が月収に定常的に上乗せされるのに対し、日勤のみの働き方に変えると、その分の収入が減る傾向があります。「転職して額面が下がった」というケースの一定数は、給与水準の低下ではなく夜勤回数の減少によるものです。
夜勤手当の平均額(1回あたり)
| 勤務形態 | 平均額(1回あたり) |
|---|---|
| 三交代制・準夜勤 | 4,567円 |
| 三交代制・深夜勤 | 5,715円 |
| 二交代制 | 11,815円 |
出典: 日本看護協会「2024年度 看護職員の賃金に関する実態調査」 https://www.nurse.or.jp/home/assets/20250624_nl02.pdf
日本看護協会「2024年度 看護職員の賃金に関する実態調査」によると、夜勤手当の平均は二交代制で1回11,815円です。仮に月4回入ると、手当だけで月約4.7万円が上乗せされる計算で、夜勤の有無が年収に与える影響の大きさが分かります。病棟から日勤のみの職場へ移るときは、この部分が抜けることを織り込んで比較する必要があります。
逆に言えば、同じ職場でも夜勤回数を増やせば月収は上がりやすく、夜勤専従という働き方を選ぶ人もいます。ただし収入と生活リズム・体力のトレードオフになるため、年収の数字だけで判断せず、続けられる働き方かどうかとセットで考えるのが現実的です。
基本給は伸びにくい——手当依存の構造を知る
もうひとつ知っておきたいのが、基本給の伸びの実態です。日本看護協会「2024年度 看護職員の賃金に関する実態調査」によると、看護師の基本給は2012年との比較で約6,000円(約2.3%)しか上がっていません。同調査は、賃金の引き上げがベースアップ(基本給の底上げ)ではなく手当によって行われてきたことを指摘しています。基本給は賞与や昇給の算定土台になりやすいため、この構造は年収の伸びにも効いてきます。
新卒(大卒)と勤続10年の給与比較
| 区分 | 基本給 | 税込給与総額 |
|---|---|---|
| 新卒(大卒)初任給 | 215,614円 | 284,063円 |
| 勤続10年(31〜32歳) | 250,380円 | 334,325円 |
出典: 日本看護協会「2024年病院看護実態調査」 https://www.nurse.or.jp/home/assets/20250331_nl1.pdf
日本看護協会「2024年病院看護実態調査」の新卒と勤続10年の比較を見ても、基本給の伸びは緩やかです。同じ職場で昇給を待つだけでは年収が変わりにくい構造だからこそ、基本給・手当の内訳を職場ごとに比較して動くほうが、年収が変わりやすいと考えられます。
年齢別の相場の目安(本サイトの推定基準値)
医療・介護職の年収相場(年齢別・本サイトの推定基準値・万円)
| 年齢 | 年収相場(推定・万円) |
|---|---|
| 22〜25歳 | 410 |
| 26〜29歳 | 440 |
| 30〜34歳 | 450 |
| 35〜39歳 | 480 |
| 40〜44歳 | 490 |
| 45歳〜 | 500 |
本サイトの推定基準値です。厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」(2026年3月24日公表)の看護師と介護職員の統計値を6:4で合成した「医療・介護」職種の値であり、看護師単独の統計値ではありません。「きまって支給する現金給与額×12+年間賞与」で算出し、10万円単位に丸めています。実際の年収は夜勤回数・地域・施設種別・経験年数で大きく変わります。
参考: 冒頭で紹介した厚生労働省job tagの平均年収524.7万円(平均年齢42.1歳)は看護師単独の統計値です( https://shigoto.mhlw.go.jp/User/Occupation/Detail/156 )。上の表は看護師と介護職員を合成した本サイトの推定基準値のため、出典・算出方法が異なります。
表から読み取れるのは、医療・介護分野は20代から一定の水準に達しやすい一方、年齢による伸び幅は全職種平均に比べて緩やかな傾向がある、という形です。だからこそ、年収を変える主な変数は「年齢」よりも「夜勤・職場・役職」の側にあると考えられます。
職場の種類による違いの傾向
- 病院(病棟): 夜勤手当が付くぶん総額は高くなりやすい傾向。規模・機能(急性期か慢性期か)でも条件が分かれます。
- クリニック: 日勤中心で生活リズムは安定しやすい一方、夜勤手当がないぶん総額は病棟より抑えめになりやすい傾向。
- 訪問看護: オンコール(待機)手当の有無と単価が収入と負担の両方に効きます。事業所による差が大きい領域です。
- 介護施設・健診・企業など: 業務内容と給与構造が病院と大きく異なるため、額面より「何の対価か」の確認が重要です。
いずれも一般的な傾向であり、個別の施設・法人で条件は大きく異なります。「病棟だから高い」「クリニックだから低い」と決めつけず、求人ごとに内訳を確かめる姿勢が安全です。
転職時に確認したい給与内訳のチェックリスト
- 基本給はいくらか(手当を除いた素の金額。賞与・退職金・昇給の土台になりやすい)
- 夜勤手当の1回あたり単価と、月の想定回数
- 賞与の算定基礎(基本給ベースか総支給ベースか)と直近の実績
- オンコール・時間外の扱い(手当の単価・実際の発生頻度)
- モデル年収が「夜勤何回・残業何時間」の前提で書かれているか
面接や見学の場で内訳を確認するのは失礼にはあたりません。むしろ内訳の質問に具体的に答えられる職場かどうかが、入職後のギャップを減らす判断材料になります。あわせて、年収以外の軸(残業の実態・有給の取りやすさ・教育体制)も同じ場で確かめておくと、数字だけでは見えない働きやすさまで比較できます。
まとめ
看護師の年収は「基本給+手当(特に夜勤)+賞与」の構造で決まりやすく、額面の月給だけでは比較できません。転職で見るべきは総額よりも内訳です。まず自分の年齢・職種の推定相場を確かめ、そのうえで求人ごとの内訳を照らし合わせる、という順序をおすすめします。